阿部紗采
普段はプラクティカルな情報を提供することが多いですが、本記事では少し抽象的なことをお伝えします。日本人学生が、日本人居住者が少ないヨーロッパの街で生活すると、どのようなことを感じるのかというのが、今回のテーマです。留学が「楽しい!」「勉強つらい!」だけではないということを、少し感じてほしいのです。私にとっては、留学が「マイノリティになることがどういうことなのか」を初めて体感する機会となったため、このようなテーマで記事を書くことにしました。
たとえ同じ大学に留学したとしても、個人の英語力はもちろん、感受性、外向性などの性格によって、何を感じるのかは大きく異なります。ですので、この記事の内容も、筆者個人の感想と受け取っていただけると幸いです。
※本記事でいう「マイノリティ」とは、単に「日本人が少ない集団における日本人」という意味であり、「社会的に弱い立場である人」のことは意味していません。
1.留学で出会った人たち
ウメオ大学で出会った留学生の多くは、ドイツやフランス、オランダからの学生でした。そして、授業は現地の学生と同じ建物で行われるため、日々目にするのはスウェーデン人ばかりです。正確な数字はわかりませんが、日本人はもとより、東アジア人の割合はかなり低かったでしょう。ですから、留学中に出会う人の多くは、必然的にヨーロッパの人ということになりました。
このような状況ではあるものの、私は多くのアジア人と顔見知りになりました。そして、友人としての距離を縮めやすいのは、日本に近い国の出身の学生だと感じるようになりました。その理由としては、英語力が同じくらいであること、共有している文化が多いことなどが考えられます。ほかにも、互いの国の政治関係を、ある程度把握していることも影響しているでしょう。
反対に、留学初期の期間は、ヨーロッパ出身の人と打ち解けるのに、時間がかかったのを記憶しています。特に強く感じたのは、相手の国のことを知らないために、話題が作れなかったり、会話を長く続けられないことへのもどかしさでした。例えば、カタルーニャ独立問題やBrexitについて、突然話を振られたとき、何を話せば良いのかわかりませんでした。
これらの問題について、自分の意見を述べられるだけの知識があるでしょうか。どれだけ、実際の問題として考えているでしょうか。どこか遠い国で起こっている、自分とはあまり関係のなさそうな問題は、留学によって、ぐっと身近な話題になることを痛感しました。
2.「マイノリティ」であることをどう感じたか
スウェーデンに滞在している間、「スウェーデン人ではないから」「マイノリティだから」という、差別的な思想には直面しませんでした。私は、スウェーデン人が9割以上を占める学生団体に所属していましたが、少なくとも自分のいたチームの公用語は英語にしてくれましたし、スウェーデン語での連絡事項も、みな優しく英語で説明しなおしてくれました。このことは、自分に「マイノリティ」であっても生活できるという、自信を与えてくれました。(これは、スウェーデンが特に ‘Equality’ に高い関心のある国だから、という可能性もあり、他のヨーロッパの国でも同じだとは、一切保証できません。)
しかし、前出のような話題についていけないことや、ヨーロッパの学生との英語力に壁を感じるあまり、アジア人で共通の話題を探すほうに舵を取りたい、つまり「マイノリティを辞めたい」と思うことが、何度かありました。このような、異なる二つの感情を経験できたことは、留学でしか味わえない、非常に有意義なことだったと感じています。なぜなら、これは「文化そのものの強さ」を体感したともいえるからです。
3.これから留学する方へ
もしこの記事を読んで、留学で日本人ないしアジア人コミュニティにはしがみつきたくない、と思ったなら、
・ヨーロッパで話題になっているトピック、特に政治的問題に関心をもっておく
・流暢な英語を話すヨーロッパの人とも、臆せず話せる度胸、英語力を身につける
・留学生だけの授業ではなく、現地学生向けの授業を履修する
・現地学生のサークル、学生団体などに所属する
ことをおすすめします。
特に、下二つの項目については、アジア人は自分だけ、という「マイノリティになる」状況を作り出せる可能性があります。
ただ、次のことを、少し考えてみてください。「せっかく留学に来たのだから、日本語よりも英語、日本人よりほかの人」と考えるのは当たり前です。しかし、ヨーロッパの国に留学する目的は、ヨーロッパのことだけを知り、ヨーロッパの人とだけ交流することでしょうか。
自分の視野を広げるために、そして心のよりどころとして、日本人やアジア人と交流することも大切です。日本人の学生同士で意見を交流し、新たな見方を得られることもあるかもしれません。留学という機会を最大限に活かすためにも、「マイノリティで居続ける」のか、「マイノリティを一時的に辞める」のかを、自分なりに、積極的に選択できるとよいですね。
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